学校で使える電子顕微鏡を開発し、ミクロな世界の感動を伝えたい
新日本電工株式会社は半導体検査装置、気象観測システムなどの情報通信、制御計測関連機器を扱っている会社です。そのような会社が、学校教育用に今までの走査型電子顕微鏡(SEM)ではあり得ないサイズと操作性を備えた「MOBILESEM(モバイルセム)」を開発しました。その経緯や思いを生産事業部の日野さん、渡邉さんに伺いました。
様々な技術を生業にしている私たちにとって、最近の「理科離れ、工学離れ」はなんとか解決したい問題です。そのためには、中高生の頃から事物をよく観察し、その感動を共有することが重要だと考えています。そこで私たちは、学校でも手軽に使えるSEMを開発しました。SEMを使い自らの手で物質表面の微細な凹凸や美しい模様を観察できたときの感動は、他に代えがたいものがあります。
一般的なSEMは、置き場所に1部屋を要するほどの大きさで扱いが難しく、また1000万円以上の高価格な機器なので、学校に導入するには高い壁がありますが、私たちが開発したMOBILESEMではそれを克服しました。まず生徒の机の上に乗るサイズを実現しました。さらに、電動アシスト自転車の24Vバッテリーを使えば野外でも活用することができます。またSEMで観察するには試料に導電性が必要で、一般的なSEMではそのために別な装置を使って金属を蒸着させるなど、さまざまな前処理が必要ですが、MOBILESEMではイオン液体をスプレーするだけで前処理が完了します。その上で、授業の50分間で観察できるよう、性能の高い真空ポンプを活用し、5分あれば観察ができるようになりました。
今年は埼玉県教育委員会・岩手県陸前高田市でのイベントやシンガポールのサイエンスフェスティバルでMOBILESEMの紹介&体験会を行いました。普段見ているシャープペンの芯、昆虫の触角、植物の花粉などを、子どもが自ら観察しそこに広がる新たな世界を目の当たりにして、多くのことを感じてくれたでしょう。私たちはMOBILESEMを通じて、日本だけでなく世界の子ども達へミクロな世界の魅力を伝え、科学を志すきっかけを提供し続けていきたいのです。
(「教育応援 vol.15 2012.9」より)
卓上型電子顕微鏡MOBILESEM