宇宙を見上げて科学を学ぼう
第11回 太陽を見上げて授業をしよう
太陽観測衛星「ひので」が見た黒点の姿
太陽は私たちにとって最も身近な恒星です。2006年、世界最高の可視光・磁場望遠鏡を持った太陽観測衛星「ひので」が打ち上げられ、地上からでは見えない太陽の姿が届けられるようになりました。国立天文台の勝川行雄先生は太陽表面に見える、中学・高校の授業でもおなじみの「黒点」についてその構造や運動のメカニズムを調べています。
半暗部を音速で流れるガスの謎
天体望遠鏡と反射板を使って学校でも簡単に観察できる太陽の黒点。継続的に観測をしていくと、分裂・合体したり、移動したりといった変化を観測することができます。太陽の表面は光球と呼ばれ、熱によるガスの対流が起こっています。光球にある黒点は磁力線が巨大な束になって集まった場所であり、熱の対流運動が抑えられ、周囲と比べて2000℃程温度が低いため黒く見えています。地球から見ると、黒いシミのように見えますが、実際の姿は全く異なります。直径10000km以上、大きいものだと地球がすっぽりと入ってしまう程の想像を絶する巨大な構造です。太陽表面を覆うガスが押し分けられ、くぼんだ構造をしています。黒点の中心部分は「暗部」、そのまわりは少し明るく筋状の構造が見られる「半暗部」と呼ばれる部分です。半暗部では、暗部の方向から外側に向けて放射線状にガスが音速ほどの猛烈な速さで流れる「エバーシェッド流」が起こっています。この流れは、磁力線の束がある程度の大きさになったときのみ表れることが分かっていますが、なぜこのような流れが発生するのか、そのメカニズムは黒点で見られる現象の中で大きな謎の一つです。
見えてきた黒点の構造と新たな課題
この謎を解明するため、勝川先生らの研究グループは「ひので」を使って磁力線の向きや磁力や温度のムラ、ガスの運動の様子などの実測データを集めました。半暗部の磁力線や光球でのガス対流など、それまでの研究結果から得られた結果をもとに作り出したシミュレーションの黒点と、「ひので」から得られた実測データを比較しました。その結果、シミュレーションで作りだした黒点が示すデータが実測データに近い値を持っていることが分かりました。ここから、これまで謎だったエバーシェッド流の発生に熱対流や半暗部に特徴的な磁力線が関わっていることが明らかになりました。しかし、シミュレーションで作りだした黒点と実際の黒点は微細な構造や得られるデータが完全に同じではなく、黒点の形成にはまだ計算に入れていない要素や、そもそも「ひので」では観測することができない要素が影響を与えているのでは、と勝川先生は考えています。
彩層内での現象を明らかにせよ!
「ひので」の活躍により、黒点をはじめとする太陽表面の磁場の様子が少しずつ明らかになってきました。磁場の強さや方向を知るためには偏光と呼ばれる光を測定する必要がありますが、太陽が発する光のうち磁場によって発生する偏光は0.1 ~ 0.01%程度です。「ひので」は光球の磁場は測定できますが、高度2000kmの位置にある彩層と呼ばれる薄いプラズマ層では、さらに偏光が弱くなるため観測できません。現在、より精度の高い観測機を搭載した「Solar-C 」計画が進んでいます。これにより、黒点から出る磁力線が彩層に与える影響など新たな情報を入手することが期待されます。太陽の本当の姿が見えるのはまだまだこれからなのです。
金環日食まであと半年。太陽に注目しよう!
太陽表面を観測してみると、周囲よりも温度が低い場所「黒点」が見られる事があります。この黒点が多い時は太陽の活動が活発になっている証拠。太陽を観察する場合は有害な光線によって目を傷める危険があるので、必ず専用の道具を使いましょう。大きな黒点なら、日食グラス越しに確認できます。2012 年5 月21 日には、「金環日食」が国内で見られます。太陽が金色のリングに輝く様子は、見逃せない現象です。
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(「教育応援 vol.12 2011.12」より)